令和の正装<3>
ファッションが自由で多様になった現代でも、プロトコル(国際儀礼)やドレスコードは失われたわけではない。令和の「正装」を紹介しながら、今あらためてフォーマルな装いの伝統と意味を考える。
スカート合わせでエレガントな雰囲気に
春は卒業式や入学・入社式など、きちんとした装いが求められる季節。上下が同じ布地で作られた「スーツ」は男女ともにフォーマルウェアの基本の一つだ。女性の服では上がジャケット、下はスラックスではなくスカートを合わせるとエレガントな雰囲気になる。

天皇、皇后両陛下の長女愛子さまが2024年4月1日、就職先の日本赤十字社に初出勤された際のスーツは濃紺色で、裾にかけてゆったりと広がるフレアスカート。タイトスカートと合わせた場合に比べて、揺れるフレアが柔らかな雰囲気を醸し出している。
髪は後ろで一つにまとめ、すっきりとしたスタイル。服飾文化の研究者で、フェリス女学院大非常勤講師の青木淳子さんは「新入社員として頑張ろう、という意気込みが伝わってくるかのようです。カッチリとした仕立てのテーラードジャケットにフレアスカートを合わせるところが、愛子さまのお好みなのかもしれません」と話す。「濃紺色は端正な雰囲気になり、フォーマルウェアにぴったりです」
雅子さまはスタイリッシュに、愛子さまは可憐に
淡い色合いのスーツを着用されることもある。2024年10月に初の単独地方公務として赴かれた佐賀県での初日は、ピンクベージュのスーツ。襟と袖口、ジャケットの前身頃にやや太めの白いパイピング(縁取り)が施されていた。
このような白いパイピングは、雅子さまが皇后になられて初めての地方訪問として、2019年6月に愛知県へ赴かれた際に着用されたスーツにも見ることができる。「白いパイピングのスーツを雅子さまはスタイリッシュに、愛子さまは可憐(かれん)に着こなされています。同じようなデザインでも、個性が生かされると印象が違ってみえることがよくわかります」

愛子さまの佐賀ご訪問では、2日目には濃紺色のスーツでがらりと雰囲気を変えられていた。ネックレス、ブローチ、イヤリングという三つのアクセサリーは、フォーマルな装いにふさわしい真珠。白い手袋、黒い小さめのハンドバッグを手にされていた。

ここまではフォーマルの基本のような装いだが、ジャケットのインナーにはボーダー(横じま)を合わせ、一気にカジュアルな雰囲気に。青木さんは「フォーマルなスーツとカジュアルなボーダーは、ちぐはぐになりかねない組み合わせですが、愛子さまは自然に着こなしていらした。ファッションに対する冒険心というのでしょうか、新しい一面を示されたように感じました」と話す。
千葉県市川市の宮内庁新浜鴨場で今年2月、外国大使らの接待役を務められた際の愛子さまの装いは、深みのあるグリーンのジャケットに同系色のタータンチェック柄スカート。スコットランドの伝統的な柄だ。愛子さまの深い緑色と、ともに招待者をもてなされた秋篠宮家の次女、佳子さまの深みのある赤色の装いは、まるでお二人でコーディネートされたかのように色の組み合わせがぴったりだった。

愛子さまが社会人になられるまで、入学式や卒業式といった節目の機会に、雅子さまは紺色のスーツを着用されることが多く見られた。しっかりとした仕立てに見えるが、それでいて柔らかさも感じさせる。「紺地の場合、素材はウールが多いのではないでしょうか。スーツは素材と質感によって大きく印象を左右します」と青木さん。華美にならない紺色のスーツにフォーマルな黒いパンプスも、正統派の組み合わせだ。

ご一家の装いから伝わるさりげない統一感
卒業式や入学式に家族そろって参加するなら、装いに共通点を持たせる「リンクコーデ」を試してみては。ファッションジャーナリストの宮田理江さんは「上から下までおそろいにしてしまうと、くどくなる。同じアイテムは一つにとどめるか、別のアイテムで色をそろえるなど工夫しましょう」と助言する。

両陛下と愛子さまがご家族で公務に臨まれる際、さりげない統一感が装いから伝わってくるようなときがある。今年1月27日に国立西洋美術館で開催中だった「モネ 睡蓮(すいれん)のとき」展を鑑賞された際には、天皇陛下のネクタイ、皇后雅子さまのパンツスーツ、愛子さまのニットのインナーがワインカラーでリンクしていた。「ご家族の絆が感じら
私たちがフォーマルなスーツを取り入れる場合、女性はボトムがスカートかスラックスかで大きく印象が変わる。「スカートのスーツは上品な印象を与えることができるので、新しい出会いが多い春には上手に活用してみましょう」と宮田さん。
愛子さまの装いで多く見られるのが、佐賀ご訪問時のような台形のスカート。フレアほどではないが、少し裾が広がっているため歩きやすく、座ったときの横じわも気になりにくい。座ったときに膝が隠れるくらいの丈が動きの邪魔にならず、私たちにもおすすめだという。「愛子さまのスカートスーツの着こなしは、無理をしていない快適なスタイルだと思います」と宮田さんは話す。
(読売新聞東京本社生活部 梶彩夏)
れるようで、装いが調和しています」